風邪の患者さんで、時々「明日から出張で今日中に治したいから注射してほしい」とか、「週末から旅行なので一発で治したいから点滴してほしい」などおっしゃる方がおられます。ちょっと考えてみてください。今日中になおる注射や一発で治る点滴があればすべての患者さんに投与しているはずです。だって、そうすればクリニックの評判が上がるじゃないですか。そもそも、風邪に対して治るのを早める作用のある注射や点滴は世の中に存在しません。風邪の原因はウイルスですが、そういうウイルスを消せる薬は世界中にないんです。では風邪はどうやって治るのか、というと、風邪のウイルスは皆さんの体の抵抗力(免疫力)で消しているのです。風邪薬はウイルスが消えるまでの間、できるだけ楽に過ごせるように、必要以上に体力を消耗しないように少し手助けをする、そういう働きなのです。当然、そういう薬を飲んでいる方が楽に過ごせるので薬を飲むこと自体はお勧めです。しかし抗生物質(抗生剤・抗菌薬)は飲むべきではない薬の一つです。抗生物質は細菌を治療するための化学療法剤です。先ほどから書いているように、風邪はウイルスが原因の病気です。ウイルスが原因の病気に対して細菌を治療するための薬を飲む、ってあり得ないですよね。エイズはHIVというウイルスの感染によっておこる病気ですが、エイズの治療に抗生物質は使いません。抗生物質で治るのであればエイズはとっくにこの世の中からなくなっているはずですよね。日本では何故か典型的な風邪の患者さんに対しても抗生物質を処方する病院が多々ありますが、病気と無関係の薬を処方していることになりますから実際には大問題です。最近になってようやく厚生労働省が「風邪に抗生物質を処方しない病院にポイントを与えよう」などとポイントを餌にして正しい処方に導こうとしています。話がそれました。要はそれくらい風邪を直接すぐに治せる薬は存在しないということをお伝えしたかったのです。大事なのは休養をとること、体を冷やさないこと、水分を適度に補給すること、そして症状が強ければ薬で症状を抑えて体がウイルスと戦う手助けをすること、です。日頃からの体調管理も大切です。

上嶋内科・消化器科クリニック